家族信託とは?

最近、「家族信託」という方法が、徐々に注目されています。駅の広告にもたまに見かけます。では、家族信託とはどんなものでしょうか?

高齢化(65歳以上は、日本の人口の29.1%(2021/9/20))ということは、生きている期間が長くなるということですが、心身共に健康で、自分のことは自分できちんと判断出来るのであれば問題ありません。
ただ、65歳以上だと16%、80歳以上だと男性35%、女性44%が認知症という発表もされています(東京都健康長寿医療センター研究所)。
認知症になることは高齢化の必然ともいえます。
自分が何時、認知症になるかはわかりません。その時のために、元気な間に準備をしておくことは杞憂ではないと思います。まさしく親も子供も守る選択が家族信託です。

認知症になる前に出来ること・・・遺言?

では、認知症になる前に、出来ることはどんなことでしょうか。
遺言を準備して、子ども達に遺産の分け方を指定しておく、ということは当然出来ます。もっとも、これは亡くなった後のこと。亡くなるまでの間に認知症になったその時をどうするか。

認知症になってしまったときは・・・成年後見?

本当に認知症になってしまい、判断能力がなくなってしまった場合は、自分で預金を動かすことや、不動産の処分をすることも出来なくなってしまいます。
その場合は、法的には成年後見制度を申立て、成年後見人を選任し、成年後見人に法的な手続を行って貰うことになります。
ただ、制度として後見制度は、本人の利益の為の制度なので、家族全体として合理的な選択であっても、自宅の処分などには裁判所の許可が必要でなかなかスムーズに進めることは出来ません(そこがこの制度の目的とも言えますが・・・)。

家族信託という選択肢

たとえば、アパートを建て、その賃料収入で生活している夫(75歳)と妻(73歳)がいます。彼らには別居の長男がいます。
夫は、「今は、大丈夫だけど、なんだかんだ契約だの修繕だの自分でするのも面倒くさくなってきた。それに、自分が認知症になったり、先に死んだ場合どうしよう? 将来は長男にまかせておけばいいけど、安心しておきたい。」と漠然とした不安が胸をよぎるときがあります。
この場合、任意後見で予め自分で後見人を選択しておくということもできますが、それでも後見監督人が付いて、やはり家庭裁判所の関与などあります。
遺言は亡くなったあとのこと・・・。

家族信託であれば、家族で話し合いをし、その内容に応じて「家族信託契約書」をきちんと作成すれば、自分の意思を反映できます。
つまり、長男にアパートの管理を今の内から託し、その収益は自分(親)の為に使うように指定します。
それは自分が認知症になってもそのまま委せておけます。さらに、自分が亡くなった場合は、妻が受け取るように指定し、さらに妻も亡くなった場合は、長男にアパートの所有権を移るようにすることが出来ます。
もちろん、それ以外のご本人の希望やご家族の希望を話し合い、それを指定することもできます。

以上については、遺言は要りませんが、アパート以外の財産について、長男以外の子に揉めないように分けるために別途、遺言を書いておくということもあり得る選択です。

アパートの登記等は?

信託契約書に従い、名義を長男とする信託の内容が記載された登記をします。信託されたということは一目瞭然ということになります。入居者にはもちろん、管理会社等にもお知らせしましょう。

税金は?

不動産取得税や贈与税は課税されません。名義は長男に移りますが、長男は管理するだけ(受託者といいます)で、利益を受けるのは自分(受益者といいます)のままだからです。

銀行口座は?

さらに信託されたアパートの賃料を受け取り、管理する銀行口座を新しく開設します。この口座の使用は、長男の自己使用の銀行口座ときちんと区別して管理してもらいます。

長男(受託者)の仕事は

アパートの管理をしていき、お父さんの生活費を得ていくことです。お父さんが認知症になっても、亡くなっても。家族信託をしていない場合は、お父さんが認知症になった時点で管理は出来なくなります。
管理に関しては決算書を作成し税務署に提出します。

家族信託で出来ること(会社の承継等にも応用)

以上は、一つの事例です。シンプルにしましたが、家族信託は、ある意味、かなり自由に設計出来る制度なので、いろいろ必要に応じて、オーダーメードで設計することが出来ます。
たとえば、会社経営をしていて、親族(相続人予定者)以外を後継者にしたい場合、ある期間、自己の実質的決定権(指図権)を残し、かつ株式の受益権も留保しつつ(これにより贈与税は発生せず)、株式を後継者に信託する、ということも出来ます。その後、解除することも勿論、出来ます。
もちろん、ベースにあるのは、信頼して託することの出来る人間関係。託したい人がいる、託されてもいいと思っている人がいるということ。これが前提になります。よく話し合って、現在の自分の意思で、自分の財産をどう使いたいか考え、それを託するための有効な選択肢の一つだと思います。

 

費用

家族信託(信託計画作成・関係者(銀行等)との折衝・信託契約書の作成等)
50万円~

信託監督人・受益者代理人に選任の場合
5万円/月