【コラム】話を聞く技術
裁判所には裁判所のルール、流儀があり、裁判の中でのやりとりとして「認否」というのがあります。
例えば「被告は原告に対し、日々、罵詈雑言を浴びせ続け、原告はノイローゼになってしまった」というような「訴状」で指摘にどう答えるか。
「罵詈雑言を浴びせたのはそっちでしょ、こっちこそ欝病になっちゃうよ(怒)」と反撃したいところを、「否認する」の一言にまとめるのが「認否」。
証人尋問においても、「あなたは、ご主人に夕飯を出さなくなりましよね?」という相手方代理人からの質問に対して、裁判所的に求められているのは「そうです」であって、「それは、彼が毎日帰宅があまりに遅いので、たずねたら『もういらねえよ』と何日も言われたからです」という理由は、こちらの代理人からの質問で答えればいいのです。
……とはいえ、人間、そんなに冷静でも非感情的でもありません。ついつい「いや、だから、それは彼がいらないよ!と言ったからで、私は遅くても毎日夕飯作っていたんですよ」とか「あれだけデタラメなことばかり言われれば、少しは言い返しますよ」みたいな反論合戦に陥りがち、まあ、それが人というもの……。
ということで、依頼者の方との打ち合わせでも、思い通りに事実が引き出せることはごく稀です。……いうは易し、行うは難し。
事実を把握すること……これが実務法律家の第1の仕事であり、全てかもしれません。
初めてのことばかり戸惑っている依頼者から、必要な事実を聞き出せるよう鍛錬の日々です。